「なんちゃって5G」問題 — 転用5Gと本物の5Gで速度は変わるのか調べてみた
※ 速度データは調査時点のもの。最新情報は各社の公式ページでご確認ください。
調べたこと
スマホの画面に「5G」と表示されているのに、速度を測ると4Gと変わらない——。SNSでよく見かけるこの不満は「なんちゃって5G」と呼ばれる現象に起因していることが多い。正式には「転用5G(NSA: Non-Standalone)」といい、4G用の周波数帯を5Gの電波として使い回す方式のこと。本物の5G(SA: Standalone)とは何が違うのか。速度差はどのくらいあるのか。キャリア4社の対応状況とあわせて調べた。
各キャリアの全体的な速度・体感は「MNO大手4社の速度を比べてみた」にまとめている。ここでは「5Gの中身の違い」に絞って見ていく。
そもそも「なんちゃって5G」とは何か
5Gには大きく分けて2つの方式がある。NSA(Non-Standalone)とSA(Standalone)。端末の表示はどちらも「5G」だが、中身はかなり違う。
| 項目 | 転用5G(NSA) | 本物の5G(SA) |
|---|---|---|
| コアネットワーク | 4G(EPC)を流用 | 5G専用(5GC) |
| 使用周波数 | 4Gから転用(700MHz / 900MHz / 1.7GHz / 3.4GHz等) | 5G専用帯(Sub6: 3.7GHz / 4.5GHz、mmWave: 28GHz) |
| 帯域幅 | 4Gと同等(10〜40MHz程度) | 広帯域(Sub6: 100MHz、mmWave: 400MHz) |
| 速度の印象 | 4Gとほぼ同等(30〜100Mbps程度) | Sub6: 100〜400Mbps / mmWave: 数百Mbps〜数Gbps |
| 遅延 | 4Gと同程度 | NSA比で約25%改善(Opensignal調査) |
| 端末の表示 | 「5G」 | 「5G」(一部端末で「5G SA」「5G UC」等) |
「転用5G」は技術的には5G NR(New Radio)の信号を使っているので嘘ではない。ただし、コアネットワークは4Gのまま、周波数帯も4G時代の幅しかないため、速度や遅延の改善は限定的。「5Gの看板を掲げた4G」と言われるのはこのため。
なぜキャリアは転用5Gを使うのか
理由は単純で、5G専用帯(Sub6やmmWave)の基地局を全国に建てるには膨大なコストと時間がかかるから。
Sub6(3.7GHz / 4.5GHz)は電波の直進性が強く、4Gのプラチナバンドのように建物を回り込んで届くことが難しい。mmWave(28GHz)はさらに短い波長で、見通し距離でしか届かない。つまりSub6やmmWaveでカバレッジを広げるには、従来の4G基地局よりもはるかに密に基地局を設置する必要がある。
一方、転用5Gなら既存の4G基地局のソフトウェア更新だけで「5G」のサービスを開始できる。新しいアンテナやタワーの建設が不要なため、短期間かつ低コストでエリアを拡大できる。
総務省は5Gの人口カバー率の向上を各キャリアに求めており、2024年度末の全国カバー率は98.4%に達している。この数字の多くは転用5Gの貢献。仮に転用5Gを除いた「SA限定の5Gカバー率」を出したら、大幅に低い数字になるはず(各社ともSA限定のカバー率は公表していない)。
キャリア別の状況(2026年4月時点)
NTTドコモ — 方針転換を経てSA拡大中
ドコモは当初、転用5Gを採用しない方針を明言していた。「5G専用帯で本物の5G体験を提供する」という姿勢で「瞬速5G」ブランドを展開。しかしKDDI・ソフトバンクが転用5Gで急速にカバレッジを拡大する中、2022年春に方針を転換し、700MHzや3.4/3.5GHz帯の転用を開始した。
5G SAは商用提供中で、n77(3.7GHz)/ n79(4.5GHz)を使った高速通信が可能。ただしSAエリアはまだ都市部中心で限定的。2026年3月にFOMA(3G)を終了し、解放された800MHz帯は主に4Gの品質向上に、2GHz帯は衛星通信への活用が検討されている。
→ ドコモの速度・体感を調べた記事 | ドコモは通信品質を改善したのか?
au(KDDI) — SA展開で最も先行
KDDIは5G SA展開で最も積極的。2026年3月時点でSA人口カバー率90%超を達成したと発表している。Sub6・mmWaveの基地局数は約56,000局で業界最多。5Gの「中身」で勝負する戦略が明確。
コンシューマー向けに「5Gファストレーン」(ネットワークスライシング)を提供し、SA接続時の優先帯域確保を実現。また5G Advanced L4S(低遅延技術)の導入も進めている。2022年に3Gを停波済みで、解放された帯域の5G転用が完了している。
ソフトバンク — 転用5G先駆者からSAへ転換中
ソフトバンクは2021年2月に転用5Gをいち早く開始した。700MHz(n28)・1.7GHz(n3)・3.4GHz(n77/Band42)と、3つの4G帯域を5Gに転用。人口カバー率96%超の5Gエリアの多くはこの転用5Gで構成されている。
「なんちゃって5G」と最も批判を受けたのもソフトバンクだった。しかし現在はSA展開に舵を切り、混雑エリアから順次SA化を進めている。東京ディズニーリゾート周辺(舞浜エリア)での実績では、SA接続時の平均下り速度が169Mbps(NSAは109Mbps、LTEは56Mbps)。SA接続率は37.1%で他社の20〜30%を上回ったと報告されている。
楽天モバイル — SAネイティブだがエリアが課題
楽天モバイルは3Gを持たない新規参入キャリアのため、「転用する4G帯域」がほぼない。5GはSub6(n77、3.7GHz)を使っており、転用5Gの問題が構造的に起きにくい。
ただし5Gエリア自体が他3社と比べて狭い。また5G SAの商用サービスは2026年中の開始を予定しており、現時点ではNSA構成で運用中。5Gに繋がれば速いが、繋がる場所が限られるという状況。
速度の印象はどのくらい違うのか
以下は公開データ・口コミ・速度集計を眺めた感触をまとめたもの。場所・時間帯・端末で変わるため数値ではなく印象。
| 接続種別 | 使用帯域の例 | 速度の印象 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 4G LTE | Band 1 / 3 / 8 等 | 遅め〜普通 | 基準線。20〜80Mbps程度の印象 |
| 転用5G(低周波) | n28(700MHz)/ n3(1.7GHz) | 遅め〜普通 | 4Gとほぼ同等。30〜80Mbps程度の印象 |
| 転用5G(中周波) | n77(3.4GHz帯転用) | 普通 | 低周波転用よりは速め。40〜120Mbps程度の印象 |
| SA Sub6 | n77(3.7GHz)/ n78 / n79(4.5GHz) | 速め | ここから「5Gらしい」速度。100〜400Mbps程度の印象 |
| SA mmWave | n257(28GHz) | 非常に速い | スポット的。数百Mbps〜数Gbpsの印象。提供場所が極めて限定的 |
Opensignalの2025年7月の調査では、日本国内でSA接続時の下り速度はNSA比で約1.7倍、上りで約1.5倍という結果が出ている。ソフトバンクの舞浜エリアの実測でも、SA 169Mbps vs NSA 109Mbps vs LTE 56Mbpsと明確な差が確認されている。
一方で、転用5G(特に700MHzのn28)に繋がった場合、帯域幅が10〜20MHz程度しかないため、4G LTEと体感が変わらないか、条件によってはLTEのCAに負ける場合もある。「5G」の表示だけでは速度の予測ができないという構造になっている。
「5Gなのに遅い」問題の正体
「5G=速い」という期待と、転用5Gの実態のギャップがこの問題の本質。整理すると以下の構造になっている。
- 端末は「5G NR信号を受信している」時点で「5G」と表示する
- NSAでもSAでも同じ「5G」アイコンが表示されるのが一般的
- 一部の端末・キャリアでは「5G+」「5G UC」等でSA接続やmmWave接続を区別するが統一規格はない
- ユーザーが自分の接続先バンドを確認するにはバンド確認アプリやフィールドテストモード(*#0011# 等)が必要
つまり「5Gなのに遅い」のではなく、「転用5G(中身は4G相当)に繋がっている」というのが多くのケース。5Gの表示基準と実効速度が一致していないことが混乱の原因。
ドコモが当初「転用5Gはやらない」と宣言した背景にはこの問題の認識があった。しかしカバレッジ競争で後れを取り、2022年に方針転換。皮肉なことに、早くから転用5Gを展開して「なんちゃって5G」と批判されたKDDIやソフトバンクが、その間にSAのインフラを着実に構築し、現在はSA展開でリードしている。
今後の見通し
転用5GとSAの共存は当面続くが、各社ともSAへの移行を進めている。
3G停波と周波数再編
KDDI(2022年3月)・ソフトバンク(2024年1月/4月)は既に3Gを停波し、解放された帯域を4G/5Gに転用済み。ドコモも2026年3月にFOMAを終了し、800MHz帯と2GHz帯が解放された。これらの帯域は主に4Gの品質向上に充てられるが、結果的に5Gへの移行を支える基盤になる。
SA展開の加速
KDDIがSA人口カバー率90%超を達成し、他社も追随する見込み。ソフトバンクは舞浜での成功事例をもとに全国の混雑エリアへSAを拡大中。ドコモは瞬速5Gの拡充を進めている。楽天モバイルは2026年中にSA商用開始を予定。
転用5Gはなくなるのか
短期的にはなくならない。転用5Gは面的なカバレッジを確保する上で依然として有用であり、Sub6の基地局が全国をカバーするまでの「つなぎ」として機能し続ける。総務省は2030年までに全国99%・各都道府県99%のカバー率を目指しているが、これがSA限定の数字になるかは不透明。
ユーザーとしては「5G表示を見て速度を期待する」のではなく、自分の生活圏がSAエリアに入っているかどうかが実質的な判断基準になりつつある。
関連する比較記事
→ MNO大手4社の速度を比べてみた(ドコモ・au・ソフトバンク・楽天の全体比較)
→ ドコモは通信品質を改善したのか?調べてみた(パケ詰まり問題からの回復)
口コミから拾ったもの
価格.com・X(旧Twitter)・個人ブログ・ニュース記事等から。サンプル数が少なく偏りがある可能性あり。
まとめ
- 転用5G(NSA)と本物の5G(SA)では体感速度に明確な差がある。ソフトバンクの舞浜エリアの実測では、SA接続時の平均下り速度がNSA比で約1.5倍、LTE比で約3倍。Opensignalの調査でもSA接続はNSA比で下り約1.7倍、上り約1.5倍、遅延は25%改善という結果が出ている
- キャリア別のSA展開状況に大きな差がある。KDDIは2026年3月時点でSA人口カバー率90%超を達成し最も進んでいる。ソフトバンクは舞浜等の混雑エリアから拡大中。ドコモは「瞬速5G」として展開するが当初の転用5G回避方針が裏目に出た面がある。楽天は2026年中のSA商用開始を予定
- 日本の5G人口カバー率は98.4%(2024年度末)と高いが、その多くは転用5Gで構成されている。Ooklaの国際ランキングでモバイル速度62位という結果は、カバー率の数字と実効速度の乖離を反映している。韓国の5G平均速度は主要国平均の約3.8倍で、日本との差は転用5Gの比率の違いが一因
- 端末の5Gアイコン表示はNSAとSAを区別しないことが多く、ユーザーが自分の接続種別を把握しにくい構造になっている。バンド確認アプリやフィールドテストモードで確認できるが、一般ユーザーには敷居が高い
- 留保: SA展開は各社とも加速しており、この問題は時間とともに薄まる見込み。3G停波による周波数再編も進んでおり、ドコモのFOMA終了(2026年3月)で解放された帯域が4G/5Gに転用される。ただし転用5GがSAに完全置換されるまでには数年かかる見通し
- Opensignal — Does 5G Standalone live up to the hype in Japan?(2025年7月)
- ケータイWatch — ソフトバンク舞浜エリアの5G SA効果実測データ
- ケータイWatch — 5Gの「周波数転用」とは? NSAとSAの違い解説
- 日経クロステック — ドコモが「なんちゃって5G」方針転換に至った経緯
- Business Network — KDDI 5G SAカバー率90%超の計画
- ICT総研 — 全国5G通信速度調査(2026年1月)
- 総務省 — 5Gの整備状況(2024年度末)
- みんなのネット回線速度 — 主要キャリアの速度測定データ
- NTTドコモ — 瞬速5G(5G SA)公式ページ
- ソフトバンク — 5G SA公式ページ